Editor's Room

ファッションの楽しさ?

 最近はなんでもネットで買えるから、ステイホームと言われても買い物に困った記憶はありません。さらに外へ出たとしても、コンビニやスーパーでさえセルフレジやタッチ式の電子決済が主流になってきたので、いよいよ買い物という行為においては、誰かと会話を交わす必要が全くと言っていいほどなくなってきました。あまりに人との会話が無さすぎて、レジで不意に何かを聞かれた時に、とっさに答える言葉が出てこなくなってしまったこと、誰もが経験あると思います。

 ちょっとした煩わしさや面倒臭さがどんどんなくなって、便利な世の中になっているというのは、誰もが感じていることだと思います。しかし人間の心理というのは面白いもので、何かが日常から失わていくと、必ずその対極にある(失われていく)物への渇望を感じたりするもの。外に出るなと言われたら、無性に外の空気が吸いたくなるし、人に会うなと言われたら、ちょっとぐらいリスクを冒しても、なんとかして人と触れ合おうとします。それと同じように、最新技術が進化すればするほど、若者はこぞってアナログのフィルムカメラやカセットテープを手に取り、そのレアで代えのきかない魅力を噛み締めるのです。だからコロナ禍でネットショッピングをして、NetflixやYouTubeを観て、快適な自宅生活を一通り経験して思ったことは、「ライブや映画館や寄席に行きたい」「家じゃないどこかでご飯を食べてお酒を飲みたい」そして「お店でショッピングをしたい」ということでした。

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 普段なら、休みの日は死んでも外に出たくないと思うようなナチュラルボーン出不精の人間でさえ、こんなことを心から願ったのです。「無いものねだり」と言ったらそれまでですが、多かれ少なかれ、世界のみんなが心のどこかにそんな意識を持っているとすれば、何もかもがメタバースへと向かっていくこれからの時代は、それと反比例するようにして、実体験に大きな価値が生まれる。そう考えるのも、当然ではないでしょうか。

 今思えば、ファッションに目覚めた高校生のころ、必死で貯めた数万円を握り締め、千葉の田舎から電車を乗り継いでやってきた原宿、渋谷、代官山を足が棒になるまで歩き回って、好きなお店の内装や什器を見たり、そこで流れているBGMをチェックしたり、物知りなスタッフさんと会話をしたりすることは、どんなテーマパークよりも、どんなビデオゲームよりも刺激的で、楽しくて、心が踊りました。そんなショッピング体験が、ファッションの楽しさの根底にありました。世界中どこにいても、誰もが同じアイテムを手に入れられる便利な時代。何を持っているかというよりも、どこでどんな体験をしながら手に入れたか、そこに価値が生まれていくのではないでしょうか。世界中のその場所にしかないアナログでフィジカルなショッピング体験を、もっともっと楽しんでいきたい。そう思う今日この頃です。

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Photography by Ryuta Seki
Edit & Text by Shingo Sano